横須賀三浦地区3-5 三崎めぐりの船は走る?(三浦市)
2010年1月作成
横須賀三浦地区3-5 三崎めぐりの船は走る?(三浦市)
2010年1月作成
1.突然の観光船廃止
2007年末、ふと時刻表の目次地図ページを見ていると、三浦半島から一本の赤い線(航路)が消えていることに気づいた。それは、三浦市の城ヶ島と油壺を結ぶ観光船であった。何があったのだろうと思い、数日後に三浦市を訪ねてみた。京浜急行の終着駅である三崎口駅に降りると「この冬の運航は12月15日をもって終了しました。」との張り紙が掲示されていた。例年、冬季には運航を一時的に中止していたのは知っていたが、それにしても時刻表の掲載が削除されるのは初めてのことで、何か解せないものを感じつつもその日城ヶ島まで行ってみると桟橋には船も今まで通り着岸しており、それ以上調べることもせず三崎を後にした。そして、しばらくそのことを忘れていた2008年1月8日、神奈川新聞に、大きな船の写真と共に「45年の歴史に幕」の記事が載っていた。唐突に三崎観光船の廃止を知らされたのである。
記事によれば、1963年に京急グループの「三浦観光」が運航を開始し、一時は城ヶ島~油壺航路と城ヶ島一周航路に2隻が就航し、1964年のピークには年間28万人以上の利用があった。しかし2007年には年間3万人ほどに利用者も減り、198人乗りの船に平均乗客数が一ケタまで落ち込んだ。その原因としては、1970年代に入りレジャーの多様化が進む中、油壺、城ヶ島ともに観光客数が伸び悩むようになり、さらに、三浦半島ではドライブ中心の車による周遊観光が中心となった結果、船の利用がしにくくなった事などが考えられる。その上、近年では燃料も高騰し、2008年度には定期検査で多額の出費が必要となることもあって、休航から一気に廃止へと決定したようである。その後、2008年3月に運航申請を取り下げ正式にあっけなく廃止となってしまった。
2.渡船の復活
上記の観光船が就航する前、三崎と城ヶ島の間には渡船が往来していた。1960年に城ヶ島大橋が架かる前は、城ヶ島はまさに船でしか渡れない島であり、渡船は島の住民にとってはまさに生活の足であった。大橋の開通と共に姿を消した渡船が、廃止された観光船と入れ替わる形で、2008年5月に約50年ぶりに復活した。これは、第3セクターの三浦海業公社が、観光船廃止で空いた城ヶ島の桟橋を活用して、三崎港の中心施設の「うらり」(三崎フィッシャリーナ・ウォーフ、観光客向けの産直センターを中心とする三浦海業公社が運営する施設)と城ヶ島を結ぶ渡船を観光資源として就航させたものである。ちなみに船の名前は、「城ヶ島の雨」の作者として有名な北原白秋からとった「白秋」である。12人乗りの小さな、まさに「渡し舟」であるが、約20分毎に運航し、料金も200円とちょっと乗ってみるには手ごろな値段である。
この渡船と共に、三浦海業公社では「にじいろさかな号」という水中観光船も運航している。この船は三崎港の東側にある宮川湾を観光するもので、「うらり」前から出航する。こちらは40分で1200円と、多少高い乗船料が必要となるが、船底のガラス窓から海中が見えるようになっている。「うらり」で買い物をすると多少の割引サービスがある。
3.新しい観光ルートは可能か?
三浦に限らず、半島の観光のネックは陸路交通の不便さである。これに対して2008年12月にある交通実験が行われた。三浦海業公社が東海汽船とタイアップして、三崎と東京竹芝の間に高速船を運航した。その結果については約7割の乗船客が満足したとある。しかし、当日の運賃は片道2500円であったが、実際に黒字で運行させるには5000円の運賃が必要と新聞では報じられていた。筆者も実際体験乗船してみたが、確かに乗り心地も快適で東京湾の景色を眺めながら75分で東京というのは便利ではあった。しかし、現在の鉄道利用に比べ4倍の運賃では実際に利用する可能性は低いと思われる。ただ、陸路の改善については、三浦縦貫道路の三浦市への延伸計画はあるものの、時期の目途はたっていない。一方、近年、季節運行ではあるが、東京・伊豆諸島航路が久里浜に寄港するダイヤも組まれている。また、三浦半島のもう一つの海の顔である東京湾フェリー(久里浜と千葉県金谷を結ぶ、神奈川県に残る唯一のフェリー航路)も、アクアラインの値下げ構成に青息吐息の状態であるが、千葉県との一つの観光ルートとして存続している。横須賀港の「軍港めぐりツアー船」はなかなかの人気のようであり、東京湾唯一の自然島「猿島」航路も夏には観光客で結構にぎわっている。神奈川県でこれだけの航路が集まっているのは三浦半島だけである。これからの三浦半島の海運の行方には、まだまだ注目してもいいのかもしれない。
写真1 三崎港の中心施設「うらり」の前に停泊する城ヶ島行きの渡船
写真2 船底から海中が見られる水中観光船「にじいろさかな号」
【県立津久井浜高校 野本聡】